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破壊的イノベーション:高まる重要性
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2021年11月半ば、株式市場は主に利上げとインフレへの懸念から下落し始めました。
テクノロジー株は相対的に高い金利感応度やバリュエーションの高さから、足元までに大きく値を下げ、PER(株価収益率:12ヵ月先予想利益使用)は2020年9月のピークから30%低下しています1。こうした株価の調整はマクロ環境の影響を受けたものであり、市場全体に及んでいるとみています。テクノロジー株のファンダメンタルズは依然堅調であり、一部の優良なテクノロジー企業はインフレ環境でもアウトパフォームする可能性が高いと考えます。
2021年11月半ばに下落が始まって以来、世界の株式市場は約20%値下がりし2、その中でもテクノロジー銘柄の下げは最も大きく、約30%下落しています3。
テクノロジー株の下落率が最大となっているのは、予想成⾧率が最も高く、企業価値の大半が⾧期的なキャッシュ・フローから生み出されていることが主な理由です。市場が金利の上昇を予想すると、将来のキャッシュ・フローに対して高い割引率が適用されるため、現在価値は小さくなります。
資金調達コストの上昇とインフレの高進に加え、投資家の選好が成⾧率の高さから短期的な利益成⾧へと変化する中、企業はこうした環境に適応しようとしています。同時に、世界経済では、目標の達成に向けた企業の経営や投資の方法を変えるデジタル・トランスフォーメーションが様々な分野で確実に進行しています。
当社は、技術革新への需要は景気動向に左右されるものではなく、むしろ⾧期的に持続するものであり、健全なバランスシートを持つ企業は、効率性を最大限に高めるための技術に投資を続けると考えます。マイクロソフトのCEO(最高経営責任者)であるサティア・ナデラ氏は直近の決算報告で次のように述べています。「生産性向上のためのオートメーション技術に対する需要はかつてないほど高まっています。インフレ環境下で唯一のデフレ圧力となるのはソフトウェアだからです。[中略]⾧期的に見ると、GDP対比で見たIT投資額は10年で倍増するでしょう。」4
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)
導入の主な動機は生産性向上
インフレは企業のテクノロジー投資を促す
パブリック・クラウドとSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)モデルの普及に伴い、テクノロジー企業は業務効率の改善やボトルネックの特定、問題の事前予測に貢献するでしょう。モルガン・スタンレーの最新のCIO(最高情報責任者)調査によると、CIOのIT支出の優先リストの上位にはクラウド・コンピューティングやサイバー・セキュリティ、デジタル・トランスフォーメーションが挙がっています。
一方、マサチューセッツ工科大学情報システム研究センターによると、デジタル・トランスフォーメーションを完了した企業の利益率が業界平均を16%上回る傾向にあることが最近明らかになり、IT支出を優先することの正当性を裏付けています5。企業にとって、有望なソリューションの1つはオートメーション・ソフトウェアへの投資を増やすことです。人件費が上昇するに従い、企業はロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)などの技術を利用し、単純な反復作業の自動化を図ろうとするでしょう。RPAの活用により、従業員はそうした作業から解放され、付加価値の高い作業に注力することが可能となり、労働生産性の向上と全体的なコストの削減につながります。例えば、有人または無人ロボットの活用により、データの収集や加工、分析に必要な何千時間ものマニュアル作業の時間が削減されることで、何百万ドルもの運営コストの低下につながる可能性があります。
現在のインフレ環境は特に中小企業にとって厳しい環境といえるでしょう。中小企業の多くは、顧客との関係構築、オフィスの生産性向上、収益拡大を図るための時間や予算、IT人材が不足しています。マーケティングやセールスを支援するクラウド・ベースのソリューションは、中小企業が顧客を獲得するまでのプロセスを明確にし、事業成⾧のために必要なものの特定を可能とします。中小企業はこうしたソリューションを用いることで、迅速に顧客との取引や契約金額を増やし、顧客離れを低減できると考えます。
価格決定力を有するテクノロジー企業
真に革新的な製品やサービスは、多くの場合、他に選択の余地が少なく、したがって、価格が上昇しても従来の製品やサービスほど需要は変動しません。例えばサイバー・セキュリティです。サイバー攻撃による深刻な経済的打撃や風評被害を避けるため、企業は最新のソリューションを利用してデータを保護する傾向が高まっています。企業は革新的なセキュリティ製品を積極的に探し求めており、そうした製品の一例に、ネットワークや接続端末、クラウドのすべてにおいてサイバー攻撃をリアルタイムで解決する新たな技術があります。この製品を開発した企業は、そ半導体企業の利益率は引き続き上昇見込みの優れた革新的技術により、コストの上昇を顧客に転嫁しつつ、需要を伸ばしています。
セキュリティ予算は上昇が見込まれる
革新的な製品を提供する企業は、値上げを正当化し、価格決定力を保持することが可能になります。この強力な価格決定力は、半導体装置メーカーにも見られます。クラウドへの移行、車の電動化、オートメーション、スマート農業、再生可能エネルギー・インフラの構築(これらはすべて成⾧の初期段階にあると当社は考えています)はチップを必要とし、半導体装置メーカーは、チップの製造に必要なインフラを提供する企業です。投入コストの上昇にもかかわらず、主要な半導体メーカーの売上高総利益率は上昇しており、過去最高水準にあります。
こうした企業は、革新的な製品のコスト上昇を顧客に転嫁できています。自動車1台当たり、データセンター1基当たりに必要なチップ数は増加し、革新的製品に対する需要は旺盛です。世界のデジタル化が進む中、顧客に差別化された価値を提供する半導体メーカーへの需要は継続すると考えます。
半導体メーカーの利益率は引き続き上昇の見込み
テクノロジー株へのアクティブ投資を推奨する理由
企業のコスト上昇の影響の緩和を支援するテクノロジー企業や、質の高い革新的技術により価格決定力を有するテクノロジー企業など、一部のテクノロジー企業がインフレ環境から受ける恩恵は、市場で過小評価されていると考えます。これは、従来の会計処理では無形資産への投資(工場などの有形資産ではなく、ソフトウェアなどの無形資産)の価値を完全に捉えきれないことにも起因しています。革新的技術を生み出すための研究開発は、資産ではなく費用として計上されており、企業の研究開発の質に関する開示はほとんど行われていません6。しかし、ファンダメンタルズを重視する⾧期のアクティブ投資家は、テクノロジー企業の革新的技術の質を詳細に検討し、⾧期的に有望な企業を厳選して投資することができます。
パブリック市場とプライベート市場での
テクノロジー企業への投資
プライベート市場では成⾧初期段階の技術革新への投資が可能で、こうした技術は多くの場合、全く新しい市場を創造します。一方、パブリック市場では、資本集約度が高く、広範な規制が導入され、かつ、選定リスクが小さい分野の技術革新に対し、プライベート市場を補完するような投資が可能です。例えば、パブリック市場の投資家は、テクノロジー企業の中でも資本集約度の高い半導体設備企業に投資することができます。こうした企業は、世界的に見られる半導体サプライチェーンの国内回帰や最先端技術を持つ主要企業間での競争激化によって恩恵を受けることのできる可能性があると当社は考えています。また、広範囲に及ぶ電気通信規制の対象である通信タワーにおいても、主として上場REITへの投資を通じてエクスポージャーを構築することも可能です7。社会のデータインフラへの依存が高まることから、通信タワーも恩恵を受ける可能性があると考えられます。ソフトウェア分野では、非上場企業は上場企業に比べて選定リスクが高い傾向にあります。上場テクノロジー企業の大半は、上場するまでに自社の製品が市場の需要を満たし、市場で受け入れられることが確認できているためビジネスモデルや技術面のリスクはほぼ低減しています。このため、上場企業への投資判断においてはどの企業が市場シェアを獲得するかに重点が置かれます。主にこうした理由から、上場テクノロジー企業への投資は、プライベート市場での技術革新への投資を補完できると当社は考えます。
銘柄を厳選しバランスに配慮した
上場テクノロジー企業への投資手法
先行き不透明感とそれに伴う市場のボラティリティ上昇はしばらく続く可能性が高いものの、銘柄間のリターン格差の拡大につながり、アクティブ運用の重要性が高まることは確実でしょう。また、現在の環境では、アクティブ・マネジャーにとって次の二つの必要性が高まっていると当社は考えます。それは、1) 運用方針に従ってファンダメンタルズを重視し、銘柄を厳選すること、および 2) ⾧期の持続的成⾧を重視する方針に沿って、分散の効いたポートフォリオを構築することです。これは健全なバランスシート、高い利益率、高水準のフリー・キャッシュフローを備えた低レバレッジ企業への投資を意味しており、こうした企業は金利とコストの上昇局面を乗り切ることができると当社は考えます。また、銘柄の厳選に加え、地域や企業規模の分散もますます重要になっていると考えています。技術革新へのバランスの取れた投資手法とは、成⾧率の高いソフトウェア企業と、テクノロジー企業の中で従来割安な銘柄とされていた半導体製造装置企業のいずれにも投資することを指します。
今後の投資戦略
歴史を振り返ると、革新的技術と破壊的技術への投資は魅力的な戦略となる可能性があります。過去10年間で、当社が定義するディスラプター(テクノロジーを利用して創造的破壊をもたらす企業)は、創造的破壊に脆弱な企業のリターンを411%上回りました8。30年前にS&P500指数に組み入れられていた企業の52%は、時代の変化に取り残されたか、買収されて存在しません9。当社は、現在のS&P500指数の構成企業の70%超は「破壊」されるリスクがあり、革新的企業は⾧期的に大きな価値を生み出す可能性があると考えています。したがって、時価総額を加味した加重平均を用いた参考指数に捉われないことが極めて重要です。こうした参考指数は過去に勝ち組とされていた企業に過剰な資金を配分しており、投資家にとっては将来の勝ち組企業へのエクスポージャーが過少になる可能性があります。
投資家は、デジタル化や先端技術がもたらす消費などの⾧期的な成⾧テーマを見極め、企業規模や国籍にかかわらず、最も革新的なテクノロジー企業への投資を検討することが求められます。今後もテクノロジー企業は、企業と消費者の健全な財務状況を背景に強固なファンダメンタルズを維持し、また、世界的なデジタル化の進展により技術革新への需要は拡大し続けると考えています。経済が減速する世界では、様々なセクターの企業が直面する課題を予測し、これに対応することのできるテクノロジー企業の価値が高まり、⾧期的にはそうした価値に見合った株価水準になると考えられます。将来のリーダーとなるテクノロジー企業に投資することで、創造的破壊を捉えるポジショニングが可能になります。